関東大震災から三年、東京の下町で矮小な鉄工師・源次は、弟子を奪った「地盤の異変」を怨んでいる。

彼は震災直後に消えた鉄の地層が、地下に「逆さの鉄の脈」を形成していると気づく——震災で折れた地殻

が、人間の怨念を吸って硬直し、再び動くと命を喰らうという古き鉄の法則を、自らの槌で再発見した。

彼は五十年分の鉄屑と、弟子の遺した鉛筆で描いた「地殻の呼吸」を図面に起こす。

帝国大学の教授は「狂気」と嗤った。だが源次は、昭和二年春、夜間の隅田川河畔で機械を起動した。

鉄の牙が地面を抉り、三尺の穴から黒い鉄の霧が湧き、その夜、新橋で三人の官僚が心臓を鉄で蝕まれて死

んだ。

彼の復讐は、震災の怨霊を「鉄の脈」に封じる代償で、地殻の動きを人間の怒りで操る世界のルールを書き

換えた。

だが機械は、人の怨みの量で動く。

源次は、弟子の死以上に深い怨みを、自分自身に生やし始めた。

昭和三年冬、彼は最後の鍛錬を終える。

町の工場が一晩で鉄の塊に変わり、地下百メートルの鉄脈が全東京を縛る。

電車が止まり、電灯が消えた。

人々は、地面が「呼吸」していると気づく——震災で亡くなった者たちの名前が、鉄の表面に浮かぶ。

源次は、自分の手で弟子の名を刻んだ。

それだけで、機械は彼の心臓を鉄に変えた。

彼は動けなくなった。

でも、鉄脈は動き続ける。

誰かの恨みが、また大地を喰らい始める。

この世界は、怨みが鉄になり、鉄が大地を動かすようになった。

源次の復讐は、完結した。

でも、彼の機械は、まだ動いている。