大正十二年、東京・銀座の角に喫茶店「時ノ香」を開いた佐伯千代。
彼女はかつて別の時代に生きていたことを覚えている。
ある日、店の奥に隠された古い時計が異常な振動を始め、客の一人が突然二十歳若い姿に戻る。
この出来事から、千代は時間を戻すことができるという事実に気づく。
その夜、千代は自分の過去を見ようとして時計を使い、昭和初期の町並みに足を踏み入れる。
そこには故郷の影が見えた。だが、彼女の存在は時間が歪むことで周囲の人々にも影響を与える。
近所の女学生たちが彼女の姿を信じられない目で見るようになった。
ある客が再び時間を戻してしまったことに気づき、千代はその男を追う。
彼はかつて彼女の恋人だった人物だった。
しかし、二人の出会いはすでに過去に消えており、彼は新たな人生を歩んでいた。
千代は彼の元妻である女性に出会うが、その女性は千代の姿に驚き、涙を流す。
やがて、時計の不調が悪化し、千代自身も時間を戻せなくなる。
彼女は最後の力を振り絞って、自分の命を救うために時間を戻す選択を迫られる。
だが、それは未来の自分を失うことになる。最終的に、千代は時計を壊し、すべての時間を閉じる。
喫茶店「時ノ香」は再び静かな日常を取り戻すが、千代の心には深い切なさが残った。
彼女はもう一度、時間を戻すことはできない。
ただ、その場所で、誰も知らないように、彼女の物語は終わる。


