1927年4月、帝大女子学部の卒業式前日、杉本千代は教室で卒業証書を手にした。

紙は昭和二年版、墨はまだ乾いていない。その瞬間、外で鈴が鳴った。関東大震災の音。

三日前、彼女は図書館で古びた時計を拾った。裏に刻まれた「再び君と卒業するまで」。

触れた瞬間、世界がひっくり返った。震災の煙と瓦礫の匂い。母親の手が消えた。

四回目のリープ。千代は卒業証書を机の引き出しに隠した。翌朝、同級生が「あの紙、焼いたの?

」と尋ねる。言葉は出ない。代わりに、彼女は火鉢に紙を投げた。灰が舞う。また、鈴が鳴る。

五回目。彼女は帝国大学の校舎の階段で、校長の妻に会う。妻は「震災の後、息子を失った。

彼も卒業式の日だった」と呟く。千代は口を開かない。でも、その夜、証書を袖に隠して火をつける。

灰が風に舞う。

六回目。彼女は校門で、まだ生きている母親の姿を見た。母は「千代、今日、卒業ね」と笑った。

千代は走って抱きつく。母の腕は温かい。でも、時計が震えた。

七回目。卒業証書はもうない。彼女は校章を指でなぞり、校庭の桜の木の根元に埋めた。

土に触れた瞬間、鈴は鳴らず、空は澄んでいた。

卒業式。彼女は白いリボンを結び、席に着く。誰もが笑っている。証書は配られない。

校長は「今年は特別に、証書を授与しないことにした」と言った。

千代は手のひらに、埋めた校章の形を思い出した。

彼女はもう、戻らない。

校章は、震災で消えた子供たちの名前を刻むための、誰も知らない儀式の鍵だった。

時が戻るのは、誰かの「卒業」を、世界が許すため。

そして、彼女は、最後に、自分がその一人だと知った。

灰は、風に消えた。

でも、桜は、また咲いた。