東京・明治神宮跡地に建つ官立神社で、十六歳の巫女は三年間、天皇の婚姻に捧げられる「神聖な器」とし
て飼育されていた。
彼女の血は、帝国大学の学者たちが開発した「神託機械」に接続され、毎月の新月に、軍部が望む「天の声
」を人工的に生成する媒介だった。
神社の地下には、昭和三年に完成したこの機械が、神社の巫女を「選ばれし少女」として偽装し、国民に神
意と信じさせる仕組みだった。
彼女は、昨年の震災で両親を失い、孤児院から「神の使い」として引き取られた。
規則は厳しく——「神に触れた指は、二度と人間の肌に触れず、音を立ててはならない」。
だが、彼女は機械の内部を覗き、神託が「電磁波と音声合成」で作られていると知った。
それだけではない。
過去五年間、十二人の巫女が「病死」として消え、その遺体は大学の解剖室へ送られていた。
新月の前夜、彼女は神輿の裏に隠されていた機械の鍵を盗み、電源ケーブルを切断した。
神社の灯りが消えた瞬間、参拝客の間で「神が怒った」という噂が一気に広がる。
翌朝、軍の車両が神社に押し寄せ、巫女が失踪したと知らされる。
だが、彼女はすでに、帝国大学の地下実験室に潜り込んでいた。
そこには、過去の巫女たちの遺骨と、記録された「天の声」の音源が並んでいた。
彼女は、ラジオ放送局の無線機を奪い、朝のニュース番組の周波数に侵入した。三十分、静寂。
その後、彼女の声——音声合成ではなく、生の、震える少女の声——が全国に流れた。
「神は、電気と金属で作られています。私たちは、嘘に従っていました」。
その瞬間、全国の神社で神輿が倒れ、官立神社の塔が雷に打たれたように電気を放ち、爆発した。
翌日、首相官邸は「神託機械の誤作動」と発表した。
だが、帝都の学生たちは、神社の瓦礫から拾った電池に「神の声」を再生して、夜な夜な集まった。
軍は巫女を追うが、誰も彼女の姿を見た者はいない。
ただ、駄菓子屋の棚に、赤い糸で結ばれた小さな神札が、毎朝一枚ずつ置かれるようになっていた。
その裏には、いつも同じ文字が書かれていた——「逃げた巫女、まだ生きている」。
国家は神を偽り、彼女は嘘を破った。爽快だった。


