東京帝大経済学部の卒業生は、異世界転生の試験として「骨のダンジョン」に送られる。

ここでは、商品が売れない限り、身体の一部が灰になる。

西洋の時計、革靴、ガラス玉——どれも、この世界の住民には無用の長物だった。

商人である彼は、三日間、店を開き続けた。

学生たちは笑いながら「異世界は魔法だ」と言うが、彼は商品の価値を説明した。誰も耳を貸さない。

傘だけが、雨の日に誰にも売れない。なぜなら、この世界の雨は、空から降らず、地下から湧き出る。

傘は、意味を失う。

四日目、彼の左腕が消えた。灰になって風に舞う。それでも、彼は傘を棚に並べた。

五日目、右足が消えた。歩けなくなった。

床に這いつくばり、傘を手に取って、通りがかる少女に差し出した。彼女は首を振った。

傘は、雨を防げない。だから、不要。

六日目、卒業試験の終了時刻。彼の体は、胸から下が灰。頭だけが、傘の下に残った。

ダンジョンの壁が溶けて、光が差す。

卒業証書は、彼の背中に刻まれる——「売れないものを、愛し続けた者」。

彼の手に残ったのは、一本の赤い傘。誰にも買われなかった、ただ一つの商品。

それを、彼は口にくわえて、地上の空へと消えた。

この世界のルールは二つ。

一、売れ残りは、身体の一部になる。

二、売れないものは、決して「無価値」ではない。

彼が残したのは、誰も買わなかった傘。

でも、雨の日、地下の街で、一つの子どもが、その赤い傘を拾った。

それを、今も、大事に使っている。