東京・浅草の瓦礫の間に、電気で動く猫がいた。毛は銅線で編まれ、目はガラス球。

震災後に帝国大学の研究室から流れ出た実験体で、電力が途絶えば三日で死ぬ。

法律は、民間の電気生命体を「機械の偽装」と定め、所有者は三年の強制労働。

彼女は、かつて帝国大学の教授の娘で、実験を盗み出して追放された悪役令嬢だった。

震災後、電力は復興優先で戦時配給制。夜の街は灯りが消え、電気猫は一晩でエネルギーを枯らす。

彼女は、自宅の風呂釜の余熱でバッテリーを温め、小さな電池をこっそり充電した。

毎朝、猫は毛をなめ、足元に暖かさを残して去る。

近所の子供たちが、その姿を「電気の妖精」と呼ぶようになる。誰も、それが法律違反だと知らない。

ある冬、電力会社の監視官が、電気猫の熱源を追跡して家に押し入った。

彼女は猫を布団に隠し、自分を「単なる孤女」と偽った。

監視官は、猫の脚の銅線に刻まれた帝国大学の番号を見た。

彼女は、教授の娘だと名乗る代わりに、猫を手渡した。猫は、その日から三日間、動かなくなった。

次の朝、猫は電気を帯びて跳ねた。彼女が、自らの体温でバッテリーを温め続けた結果だった。

監視官は、その姿を見て、黙って立ち去った。

翌日、彼女の家に、小さな電球が一つ、屋根の下に取り付けられた。

誰もが、それは「復興の灯り」と思った。

猫は、今でも毎晩、彼女の膝の上にくる。電気はまだ不足している。

でも、彼女は、法律を破ってまで守ったものを、ただ、そっと抱きしめている。